トップ>  エッセー集パートU 題目  >    非弁とされない為の予防策      

                   行政書士田中 明事務所   → HPトップ
                    エッセー集 パートU           
               <縮こまるな、大いなる志を抱いて道を拓け!>


   非弁とされない為の予防策 

 非弁とはどういう場合を云うのか。 実際のところそれについて正確な知識を持っている人はそう多くな
ように思われます。  以下では、判例で示された弁護士法第72条の解釈を整理しました。

1 弁護士法第72条の条文

 「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立
  て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁
  若しくは和解その他の法律事務を取扱い、
又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。  
  ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。  」
     ※ 「鑑定」 →法律上の専門知識に基づいて法律事件について法律的見解を述べること。
  

2  昭和46年7月1日最高裁判決と非弁の成立要件

 弁護士第72条の立法趣旨について
 「・・・・私利をはかってみだりに他人の法律事件に介入することを反復するような行為を取り締まれば
  足りる
のであって、同条は、たまたま縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を紹
  介するとか、社会生活上当然の相互扶助的協力をもって目すべき行為までも取締りの対象するものでは
  ない」
 「 同条本文は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、同条本文所定の法律事務を取扱いまた
  はこれらの周旋をすることを禁止する規定であると解するのが相当である」と判示しています。

   つまり、
   A 「報酬を得る目的」でかつ「業として」法律事務を取扱うこと
   B 「報酬を得る目的」でかつ「業として」これらの事務を周旋すること
     A又はBが非弁であるとしたのです。

  結局、非弁は次の5つの要件を全て充たした場合に限って成立するということです。

    1 弁護士又は弁護士法人でない者であること (完全親子会社でも該当する)
    2 依頼内容が法律事件であること (事件性があること 法務省の見解)
    3 受任して取扱った業務が法律事務であること
    4 報酬を得る目的があったこと (目的犯)
    5 業として法律事務を行ったこと


3  「法律事件」及び「法律事務」の解釈について

   「法律事件」については、事件性必要説と事件性不要説(日弁連の見解)が対立しています。
  最高裁判例としてはまだ確立していません。  通説(法務省、総務省、検察庁の見解)は事件性必要説
  で、「広く法律上の権利義務に関し争いがあり、疑義があり、または新たな権利義務関係の発生する案
  件」であって、一般の法律事件」と認めるに足りるほどに将来訴訟となりうる蓋然性が具体的事情
  ら認定できるものに限るべきである
としています。

    「法律事務」については、「法律上、特に手続面で効果が発生し、または変更する事項の処理をするこ
  と」とされ、債権取立ての為の請求、弁済の受領、債務の免除等の行為も含むとされます。

    ですので、通説では弁護士でない者が「法律事件に関する法律事務」を取扱うのが非弁だとされます。
   具体例で云うと、「通常の手段では回収困難な債権取立ての委任は、一つの法律事件と目される
   案件への介入と認められる」(最高裁昭和37年10月4日決定)として非弁とされます。

   そんな中、裁判所がほぼ非弁と認めている事例があります。
  弁護士でない者が、
   イ 「被害者に代って自賠責保険金の請求・受領を行うこと」
     (東京高裁昭和39年9月29日判決)
   ロ 「交通事故の相手方と示談交渉をすること」(札幌高裁昭和46年11月30日)
   ハ 「大家の代理人として店子と交渉し、建物賃貸借契約を解除すること」
     (広島高裁平成4年3月6日決定)
 
   弁護士でない者が相手方と直接示談交渉するとまず非弁と見做されると見て間違いないようです。
 

4  「業として」の意味について
  
 昭和50年4月4日最高裁判決では、
 「反復的に又は反復の意思を持って右法律事務の取扱等をし業務性を帯びるにいたった場合をさ
 すと解すべきである」

 「商人がその営業のためにした法律事務の取扱等が1回であり、しかも反復の意思をもってしないときは、
  それが商行為になるとしても、法律事務の取扱等を業としたことにはならない」と判示しています。


5 昭和46年7月1日最高裁判決の中で非弁とならないとされた行為について

 「たまたま縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を紹介するとか、社会生活上
  当然の相互扶助的協力をもって目すべき行為」は、非弁にならない
としています。

   これは「縁故者」や「知人」に報酬を得る目的がなくかつ業として行なうものでないこと、つまり無償の慈
 善行為として行う場合であると考えられます。

   なお、「縁故者」とは、血縁・姻戚などによる繋がりのある人、又は特別な関わり合いのある人を云うの
 ですから、相互扶助的協力行為としてつまり無償の慈善行為として行うのがむしろ当然と云える関係の人
 ということになると思われます。


6 非弁が目的犯であることの意味について

  非弁は「報酬を得る目的」がないと成立しません。  つまり、「目的」という主観的要素が構成要件になっ
 ている目的犯なのです。   弁護士以外の者が無料法律相談会を実施しても非弁にならないのは、「報酬
 を得る目的」がないからです。    

  尤も報酬は依頼者から貰わなくても第三者から受け取る場合でもよいと解されていますから(法務
 省の見解)、相談会の場所を提供をしている者等から報酬を受け取ると非弁になるとされます。

 なお、報酬は、額の多寡を問わず、現金の他に物品や供応が含まれます。

  委任事務の為に特別に費やされたとは云えない人件費は報酬になるとされますが、実質的に無償委任と
 される場合に立替えたコピー代、喫茶店代、交通費等の実費を請求しても問題ないとされます。

   建築主が近隣対策屋に委任した場合に報酬を直接支払わなくても、建築会社の建築請負代金の一部か
 ら近隣対策屋への報酬が支払われることが合意されていれば、非弁になります。

   要するに、非弁は「報酬を得る目的」の存否がポイントであり、報酬を支払う合意或いは謝礼を受け
 る約束の存在が証拠により立証されれば「報酬を得る目的」があったとされる
のであって、実際に報酬
 を受領したことが要件ではないということです。

   高裁の判決ですが、「謝礼を持参するのが通例であることを知り、これを予期していた場合でも報酬を
 得る目的があるということを妨げない」(東京高裁昭和50年8月5日判決)としています。

  尤も、依頼者が終了後に一方的に御礼として包んで持って来た現金等については、受任者が成功報酬
 として請求していない限り、依頼者の自己判断に基づき感謝の気持ちで支弁しているので非弁の成功報
 酬には当たらないとのことです(弁護士会の見解)。

  最後に、隣接法律専門職種の人が受任していた案件が途中から訴訟案件になることはよくあると思い
 ますが、もしそうなったら「真に申し訳ありませんが弁護士をお探し下さい」と受任を断り、かつ以後は一
 切の報酬を請求しないことに尽きる と考えます。

 
                                2013.9.6記


 
                  行政書士田中 明事務所