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    家系図と最高裁判決
         
 行政書士の資格がないのに家系図を作成したとして逮捕され1審・2審とも有罪(懲役8ヶ月執行猶予2年)とされ
た花香氏が、平成22年12月20日に最高裁で逆転無罪を勝ち取りました。   平成22年12月20日の最高裁判決
は家系図が事実証明に関する文書に当るのかについて最高裁の初判断を示しており、行政書士の事実証明・権
利義務業務のスキームを考える上で大いに参考になります。

  同判決は「「本件家系図は個人の鑑賞ないし記念の為の品として作成されたと認められるものであり、それ以
外の対外的な関係で意味のある証明文書として利用さ
れることが予定されているとうかがわせる具体的
な事情は見当たらない
。 
そうすると、このような事実関係の下では本件家系図は・・・・行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関す
る書類」に当るとみることはできない
というべきである」と判示しています。
  要するに、家系図は鑑賞用として作成され官公署などに提出する証明文書としての利用が予定されていない
として、行政書士法1条の2第1項にいう「「事実証明に関する書類」に該当しないとしたのです。

  逆に、官公署に提出することが予定されていれば事実証明に関する文書になる可能性が高いということです。   
つまり、宮川光治裁判官が補足意見で述べているように、「官公署に提出する書類に匹敵する程度に社会生活
の中で意味を有する」場合なら事実証明に関する文書とされるということなのです。
  例えば、登記申請書類の添付書類に相続人関係図があります。 これは戸籍謄本等の原本還付を受ける為
に法務局に提出する文書です。
これも家系図ですが官公署への提出を予定して作成する文書として事実証明に関する文書になります。

  この考え方は内容証明郵便に当て嵌めて見るとよく理解出来ます。  内容証明郵便は裁判所に提出すれば
証拠として採用され裁判の基礎にされます。   尤も内容証明郵便を裁判所に提出するかは本人の自由ですか
ら予定されている文書とは厳密に言えません。    しかし、相手方に対する明白な意思表示の証拠として利用
する他、裁判外での和解等で効果を発揮することが知られている文書です。
 その意味で官公署に提出する書類に匹敵する程度に社会生活の中で意味を有している文書とは云えます。  
そして、権利義務の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書として、
行政書士法1条の2第1項の「「権利義務に関する書類」に該当することになる訳です。

  最高裁で争われたのは巻物家系図でした。 官公署に提出する為にこんな高額で見映えのいい巻物家系図を
わざわざ作る人はいないでしょう。   これは先祖に興味がある人が個人の鑑賞用として作るもので、見る人は
親族や知人程度に限られており普段は箪笥の奥に仕舞われているものです。   こんな巻物家系図を事実証明
に関する書類に当らないとした最高裁はさすがだと思います。 
  しかし、行政書士法違反で逮捕され1審2審で有罪とされた上告人花香氏の心境は複雑なはずです。
  法律の文言というのは曖昧です。 解釈を巡り対立があったりグレーゾーンとされる条文が多々あります。   
最終的には最高裁の判断で決着が付くことが多いのですが、そうなるには誰かが最高裁まで争うことが条件になり
ます。
  花香氏が最高裁で無罪になるまで、家系図は行政書士の独占業務と考えられていました。  最高裁の判断は
事実関係をよく踏まえています。  下級審ではどうしてこのような事実認定が出来なかったのかと思うこの頃です。
                           2011.2.4記


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