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                   内容証明郵便でブレイク !    行政書士田中 明事務所

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                 <縮こまるな、大いなる志を抱いて道を拓け!>


    抵当権消滅請求制度と任意売却

  平成16年4月1月から滌除制度は抵当権消滅請求制度(民法378条〜387条)に切り替り、滌除の骨格を残しつ
つ抵当権者に有利に条文に改正されました。  滌除制度は滌除屋が不当に低い価格で抵当権を除去する手段
として悪用されていた側面が強かったからです。                       
  さて新制度では抵当権者に滌除の機会を与える為の事前通知義務がなくなり、抵当権消滅請求を拒否して競
売する場合でも増価競売から通常競売(滌除の場合なら1ヶ月以内だったのが2ヶ月以内に延長)に修正され、落
札者が現れない場合も抵当権者に買受義務がないだけでなく抵当権消滅請求の効果そのものが発生しないこと
になりました。
                         
  この法改正後は抵当権消滅請求があっても金融機関は競売をして来るようになりました。  そこで、債務者側
の手法として債権者から売却価格の同意を取って行う任意売却が使われるようになっています。
  競売では売却基準価額(従来の最低売却価額)より20%減の買受可能価額が入札最低ラインとなります。 従来
は最低売却価額の1本でしたが平成17年4月1日に民事執行法が改正されてから2つの価格が公示されることにな
りました。
  即ち、1回目の競売で売却基準価額(実勢価格より2割程度低い)から更に2割も低い価格で入札出来ることにし
て売却の早期実現を図っているのです。

<事例研究>
  AさんはB銀行の融資1億円でビルを購入し、ビルにはC保証会社が1番抵当権、B銀行が2番根抵当権を設定。  
 10年後に、Aさんは返済(月額50万円)を3ヶ月延滞したので、CがBに代位弁済。  
  その時、Aさんの残債務が6000万円、税の滞納が500万円(差押)あるのに対して、ビルの時価(実勢価格)は
 5000万円しかありません。

  本事例で仮に任意売却の価格を5000万円にした場合、競売よりは債権者にメリットがあるのは明らかです。  
Cは5000万円を回収出来て残債1000万円をサービサーに譲渡すればいいのです。
  さて、抵当権消滅請求は競売による差押の効力が発生する前でなければ出来ません。   しかし、任意売却
は開札期日(競売開始決定から3ヶ月以内)の前日までならば理論的に可能であり、競売と同時平行に進められ
るのです。
                         
  任意売却の最大のメリットは、債務者が残債の処理についても債権者と協議出来ることです。  上の例でい
えば残債1000万円がサービサーに100万円で譲渡されたとしますと、Aさんは110万円位で買い戻すことが出来る
のです。   Aさんは残債をゼロに出来た上、買主からビルを賃借すれば今まで通りビルに住み続けられるという
訳です。
                        
  入札の開始後でもまだ方法はあります。   1回目の入札で落札者がいないと2回目の入札では最低ラインは
大幅に下って半分位になることがあります。   上の例では2回目で1600万円位に下った時、親戚のFさんとかに
協力してもらうのです。  Fさんには1割増の1760万円を支払うから抵当権を抹消し競売を取下げてくれないかとC
に掛け合って貰います。
  競売による差押後は、毎月の返済を支払う必要がありません。   毎月の返済が50万円なら1年も経てば600万
円も溜まります。  Fさんの負担は1160万円でよいことになり、またCにとっても最低ラインより1割増の金額なら呑
めない話ではありません。  これにより落札に失敗して赤の他人にビルを取られてしまうこともなくなります。
                       
  抵当権消滅請求制度は競売屋に有利になったと云われますが、競売屋は素人に転売して利益を得るのが目的
なので売れそうもない物件には手を出さないといいます。    
実務は法律を凌駕するといいます。   競売屋との情報戦争に勝利する為にも不動産流動化の実務を磨きたい
ものです。
                                           2011.3.7



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