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                   内容証明郵便でブレイク !        行政書士田中 明事務所

              
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                <悪徳商法に絶対負けない消費者になる方法>


    地方の商慣習を主張せよ

  10年前の売掛債権を回収してほしいと持ち掛けられることがあります。 売掛債権は2年で時効
です。しかし、地方に行くと古き良き慣習というものがあり、時効が完成しているとは俄かに判断
出来ないことがあります。                
  私は先日熊野の木材商からあった相談でそれを実感したのです。 売掛債権は10年以上も前
のもので合計450万円、しかも支払期限は定めていないというのです。 どうも、まとまった金が
入った時に支払ってくれという契約のようなのです。 聞いて見ると、これが、熊野地方の木材
取引の商慣習でずっとこれで商売をやって来たというのです。 大工の買主はまもなく行方不明
になり、最近所在が分ったものの直ぐに死亡し、相続人が継いでいるという。 相続人から回収
出来るでしょうかという相談です。

  そこで時効を回避する構成が何とか出来ないものかということが、緊急の問題になります。
債務が相続人に承継されているとしても、時効の起算点は、何時になるのか・・・・・・。
これは、単に支払期限の定めない契約なのか。 それならば、債権成立時から2年で時効だ。
いや、そうではなくて、支払期限を猶予しているのではないのか・・・・。 といったことが、
論点になります。
                
  そう言えば、「出世払い」というのがあるではないか。 出世払いというのは、将来の何時
になるか分らないが、とにかく出世する・しないが確定する時まで支払を猶予してあげると
いう契約なのである。 もちろん、こんな浮世離れした契約も有効で、判例によれば不確定
期限付き契約
とされています。
  熊野地方の商慣習はこれと似ているではないか。 ということで、私はこの出世払いをヒント
にイチカバチカ内容証明郵便で相続人に催告して見ることにしたというわけです。
                 
  私の法律的構成はこのようなものです。 当地の商慣習では、支払期限を定めないが、
それは支払資金の準備が出来る将来の然るべき時期まで期限を猶予する趣旨である。
従って、その猶予が解ける時まで支払義務はないのであるから、時効の起算点も猶予の
解けた時である。 これが、契約締結時の当事者の意思であったというものでした。

  将来、裁判になったら、裁判官がこの通り認めるか否かは別問題です。 今はとにかく
相続人に通知して、協議に乗って来させる仕掛けを作ることが先決なのです。 100万でも
払うと言ってくれれば、大成功なのですから。  
  もっとも、債務者が自己破産を申立て同時廃止となっていたことが破産管財人からの
通知で分かりましたので、上記の仕掛けは不発に終わってしまいました。
                         ж

  時効が絡んでくる古い債権の回収では、契約に付された条件とか期限が大きな意味を
持つことがありますので、ここで少し条件と期限の違いを整理して見ます。

  条件とは、将来発生するかどうか不確実なある事実によって、契約の効力の発生
又は消滅を規定することをいいます。 例えば、「私が病気になった時、車をあげる」と
言った場合、「病気になった時」に初めて、車の贈与契約の効力が発生します。
  また、「銀行融資が受けられなかった場合は、不動産売買契約は失効する」とした場合、
「銀行融資が受けられないこと」が確定した時、不動産売買契約の効力は消滅します。
  このように、「病気になつた時」とか、「銀行融資が受けられなかった時」は、いずれも
不確実な将来の事実ですから、条件ということになるわけです。
                  
  次に、期限とは、将来発生することが確実なある事実が発生する時まで、契約の
発生・消滅又は債務の履行を猶予することをいいます。 例えば、「私が死んだら、車を
あげます」と言った場合、「私が死んだ時」に初めて、車の贈与契約(遺贈)の効力が発生
します。 「私が死ぬ時」は、将来確実に発生する事実ですから、期限になるわけですが、
何時発生するかは不確かです。 そこで特にこれを、不確定期限といいます。
                  
  先の木材商取引でも、資金が出来るまで支払期限を猶予しており、かつ資金が何時
出来るかは不確かであることから、不確定期限付き売買契約ということになるわけです。
  この場合、売主は権利の上に眠っているわけではなく、買主に資金が出来た時又は
破産等で資金準備が出来なくなった時まで請求を猶予しているに過ぎません。
 ですから、消滅時効も権利を行使し得る時から、つまり猶予を解いた時から進行する
ことになります。
         



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