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   クレジット契約の契約構造について     

  売買契約が錯誤で無効の場合、クレジット契約の方も当然無効になるのかというと、判例では認めて
いません。  売買契約とクレジット契約とは、もともと別個の契約だというのです。  
  もっとも、通常は、消費者の契約でクーリングオフによる支払停止の抗弁を主張された場合、
クレジット業界の慣習でクレジット契約もキャンセル処理がなされるので問題はありません。

  しかし、商行為の場合には、割賦販売法で割賦販売法が適用除外となっており、売買契約が無効
でも、クレジット代金の請求は拒み得ないことになります。  ただ、判例でクレジット会社が加盟店の悪
徳商法を知り得たなど特段の事情がある場合に、契約者は信義則上請求を拒み得るとされているだけ
です。
 しかし、こんな判例を知っている契約者は一体どれだけいるでしょうか。 悪徳業者ほど商法上の商人
になるのか微妙な零細自営業者をターゲットにし、一旦契約を取り付けると、商行為性を主張してクーリ
ングオフにも応じようとはしないのです。  また、クレジット会社も同様で支払い停止の抗弁には応じませ
ん。 つまり、商行為が悪徳商法の隠れ蓑になっているのです。
                       
 やはり、これは少しおかしいと感じるのは私だけでしょうか。  クレジット契約は、売買契約を前提とし
て成立するものです。  では、そもそも抗弁接続の根拠は、何なのでしょう。

  有力な学説は、こう主張します。
『・・・第三者与信型消費者信用取引では、一般に、売買契約と与信契約上において、各各、与信者によ
る売買代金債務の弁済による消滅と顧客による与信契約上の債務の発生という二つの効果が一体的
に発生するように、約定がなされており、この「顧客に対する二重の効果帰属の一体的発生」から、本来、
売買契約上、目的物引渡義務と売買代金債務との間に認められる発生上・履行上の牽連関係が、目
的物引渡義務と与信契約上の支払債務との間にも延長されるものと解されることになる』 
(千葉恵美子名古屋大名誉教授)
                      
  表現はとても難しいですが、要するに、売買契約とクレジット契約は、一体的な契約構造を持つというこ
とを言いたいのです。  この立場からは、抗弁接続規定は消費者の立証責任を軽減する規定であるとし、
商行為であっても、販売店に対する抗弁事由を立証すれば、抗弁の接続が認められると考えるのです。 
私には、この考えが最も理に適っていると思うのですが。
                       

  最近、判例や通達や法改正の中でもこの有力説の影響を感じることがあります。 
例えば、リース提携販売の場合、リース会社にもクーリングオフが対抗出来るとした経済産業省通達があ
ります。  また、リース会社に表見代理責任を認めて、加盟店の詐欺による取消をリース会社に主張出来
るとした判例があります。   これらは、加盟店とリース会社との一体的な関係を根拠に、リース契約の別
契約性を否定しているのです。

 改正割賦販売法(平成21年12月1日施行)では、クレジット契約のクーリングオフ、加盟店の不実の告知、
不利益的事実の不告知によるクレジット契約の取消、過剰販売の場合のクレジット契約の契約解除が出来
ることになりました。

  しかし、商行為については何の言及もなく見送られました。
ところで、客が個人理髪店、自宅でのエステ業・マッサージ業、個人医院・個人歯科医院だったらどうでしょう。 
個人医院や個人歯科医院が商人でないのは当然として、他も物品販売業をしておらず、客との契約も施設
利用が目的(場屋の取引)でなく専ら賃金を得る目的での労務提供と考えられますから、
商行為には当らないと考えます。 

 つまり、これら個人事業者は消費者と変わりないのですから、悪徳業者がいう商行為という誤魔化しに引
き下がる必要は全くないのです。
                               令和2年4月7日一部改訂


               行政書士田中 明事務所