インターネット行政書士のフロンティア戦略 第 170号   
                令和4年7月5日発行 
      
民事法務のフロンティアに鉱脈を目差すインターネット行政書士のマインドと戦略。

                  今回の目次
      □
裁判所提出書類を業として作成しない場合もある


 
行政書士をやっていて、裁判所に書類を提出する必要になることがあります。

例えば、「委任契約及び任意後見契約公正証書」に基づき、財産管理に関する委
任事務を行っていて、委任者の弟(被相続人)が多額の借金を残して亡くなり、
相続放棄の申立が急遽必要になった時などです。

  当初、私は任意後見受任者の代理権目録に「相続の承認・限定承認・放棄」「以
上の各事項に関連する一切の事項」と記載されていることから、任意後見受任者が
本人を代理して相続放棄の申述が出来ると単純に考えていました。

  相続放棄申述受理申立書(以下申述書という)には本人の署名・押印が必要です
が、本人が病気や怪我で字が書けない時は、任意後見受任者が代理署名(記名
押印)するのだと考えていました。

  公証人に確認したところ、代理権目録の趣旨はその通りだと云います。

  これまでの実務でも、本人の依頼で本人の預金通帳から預金を下し指定先に振
込むという委任事務を処理する場合、銀行の窓口では本人名を記名しその下に代
理人田中明と署名して私の実印を押印し、印鑑証明と公正証書を提出すれば可能
だったからです。

  ところが、今回は全く違っていました。

  家裁は、本人による自署に訂正して提出してくれと云って来ました。
そして、本人が全く署名も出来ない場合は、任意後見受任者はもとより任意後見人
の代理署名もダメで、成年後見制度を利用して家裁の選定した法定後見人(法定
代理人)の代理申請でないと受理しないと云います。

  法定代理人を立てる場合というのは、本人の事理弁識能力が低下して相続放棄
の意味も解し得ないと判断される場合だったのではないか。

  本人の代理署名をして貰うというだけのことで、時間と費用を掛けて法定代理人
を立てることの迂遠さに疑問を感じました。

  法定後見人は一度選任されると解除出来ない為、月3万円~5万円の報酬を大し
た仕事がないのに本人が亡くなるまで払い続けねばなりません。


  そもそも、申述書に本人の署名を要求するのは、本人の真意を確認する為だっ
た筈です。 

 「本人の真意が他の調査から確認出来る場合、代理人の記名押印でも受理する
ことを妨げるものではない」とする趣旨の判例もあります(昭和29年12月21日最高
裁第三小法廷判決)。


  本人は文章こそ書けませんが、カタカナの読み難い署名なら震えながら書ける
状態なのです。  家裁書記官に聞いて見ますと、カタカナの読み難い字体でも本
人の署名であれば構わないと云います。

  そこで、私は再度本人の自署に挑戦して見ることにしました。
ホーム長立会いの下、看護師が添え手をしてくれたその自署は、知らない人が見
ても読めないカタカナの一筆書きの筆記体でした。

  照会書の方は署名欄に自署を貰った以外、私が文章を代筆し、代筆者と代筆の
理由を付記して提出しました。


  10日位して家裁から受理証明書が届いた時は、奇跡が起きたと思いました。
私は弁護士や司法書士に一切頼らずに、裁判所書類を提出したのです。


  司法書士法第3条第1項では、司法書士は裁判所提出書類の作成(4号)を業と
するとし、同法第73条では裁判所提出書類を司法書士会員でない者(弁護士は
除く)が業務として行ってはならないと規定しています。

  逆に云えば、裁判所提出書類の作成を業として行うのでなければ、誰が作成し
ても構わないのです。

  そこで、「業として」の意味ですが、反復継続性と事業的規模の両方を含むとす
るのが基本的解釈です。

  「反復継続性」は反復継続の意思があれば足りその意思があれば1回でも反
復継続性があるとされます。
 「事業的規模」は社会通念上「事業の遂行」とみることができる程度の規模もの
とされます。


  よく考えて見ると、申述書の作成は業として行われたものではなかったのです。

  まず、それは降って沸いた臨時的なもので反復継続の意思があった訳ではな
いのです。

  次に、委任者にたまたま発生した相続放棄申述の事務を、受任者の私がサポ
ートしたのは、本人が字を書けない身体状態にあったからです。
 
  私はその事務を不特定多数の人からの依頼を前提とする業務としてやろうとし
たのではなく、財産管理上の必要から1回限りの臨時的な事務として引き受けた
に過ぎず、その規模が社会通念上「事業の遂行」に至らないのは当然でした。

  多分、家裁の裁判官もそのような実質的判断をしていたのです。
逆に、受理しないとすれば、先の最高裁判決の趣旨に反する恐れがあるだけで
なく、申述人が甚だ大きい経済的損害を被ることは明らかだったからです。


  これまでは、「業として」という視点からの考察があまりなされて来なかったよう
に思われますので、まとめて見ました。



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