インターネット行政書士のフロンティア戦略  第 169号   
                   令和4年6月6日発行 
        
民事法務のフロンティアに鉱脈を目差すインターネット行政書士のマインドと戦略。

                      今回の目次
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相続放棄申述書の自署と代筆について


  最近、私は任意後見受任者の委任事務として相続放棄申述受理申立書(以下申述書
という)を代理作成しました。 

  委任者の弟が約2,000万円もの残債務を残して死亡したことを、サービサーからの
通知で初めて知ったからです。
  
 
申述人本人は7年前から有料老人ホームに入居していて、認知症が少しづつ進んで
いましたが、私が誰か分からなくなることはありませんでした。
  ただ、2年位前から署名がかなり崩れた字体のカタカナでしか書けなくなりました。

  私が締結していた「委任契約及び任意後見契約公正証書」では、任意代理権目録に
「相続放棄及びそれに関連する一切の事項」と記載されています。

  そこで、申述人署名押印欄に、私が記名押印(実印は預かっていた)して提出しました。


  ところが、家裁は申述人本人が署名した申述書でなれば受理出来ないとして、訂正
を求めて来たのです。

  家裁の説明に拠れば、「申述人の署名押印の代理権があるのは、法定代理人(親権
者、成年後見人など)に限られ、任意後見受任者や任意後見人のような任意代理人に
はその代理権はない。  これが家事事件手続法の規定の趣旨である」というのです。

  そこで、私は老人ホームに行き、ホーム長立会いの下、4箇所に本人の署名を貰い
ました。  その際、本人のペンを持つ右腕が震えるので看護師が添え手をしてくれま
した。

  字体はかなり崩れており、本人を全然知らない人が見たら、全く読めない一筆書き
です。 
  本人を知っている人が判読しようと目を凝らすと、カタカナが何とか浮かび上がって
くるような気がしますが、こんな字体が果たして通用するのかと正直思いました。

  しかし、ネットで調べたところ、サインと署名には違いがなく、崩していて読み難い
筆記体のサインも、本人がしたサインであると証明出来れば有効な署名であるとのこ
とです。

  本人の署名であると証明出来る人が3人もいるではないですか。


  実は、相続人には申述人の他に3人の相続人(妻と2人の妹)がいますが、他の3人
は同じ日に申し合わせたように相続放棄し家裁で受理されているのです。

  相続放棄の理由は、債務超過の為であること以外に考えられず、それは申述人本
人にとったも全く同じなので、この事実こそ本人の相続放棄が真意であることの証拠
であると私は思いました。

  しかし、家裁としては、申述人本人の署名が必要という形式的有効要件を重視して、
本人の自署を貰ってくれれば本人の真意に基づき作成した申述書と判断して受理す
ると考えていたようです。

  結局、一筆書きの本人の自署に訂正して提出した申述書は、裁判官により本人の
署名と認められて受理されました。

  ところで、本人の自署がないのに受理したとして申述の無効を主張し提訴された
事案では、最高裁判決が以下の判断を示しています。

「・・・・申述書には本人又は代理人がこれに署名押印しなければならないと定
めたのは、本人の真意に基づくことを明らかにするためにほかならないから、
原則としてその自署を要する趣旨であるから、特段の事情があるときは、本人又
は代理人の記名押印があるにすぎない場合でも家庭裁判所は、他の調査によっ
て本人の真意に基づくことが
認められる以上その申述を受理することを妨げ
るものではない
」(昭和29年12月21日最高裁第三小法廷判決)


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