情報のコーディネーター 第58号
平成21年10月11日発行
窮すれば通ず。 情報こそ反転の力なり。 コトバで心の壁を破れ。
今回の目次
□ 言葉が併せ持つ二面性について
☆ 「急いでいると悪魔が手伝う」
☆ 大乗仏教のパラドックス
□ 言葉が併せ持つ二面性について
☆ 「急いでいると悪魔が手伝う」
9月27日付毎日新聞の余禄というコラムにこの言葉を見つけました。
アラブ世界で聞いた言葉だそうです。 日本の諺にも「急いでは事を仕損じる」という
のがあります。 世界のどこの国でもこれと同じような言葉はあるようです。
日本では「急がば回れ」が一番ポピュラーです。
因みに、語源は室町時代の連歌師宗長の歌「もののふの矢橋の船は速けれど
急がば回れ瀬戸の長橋」です。
「急がば回れ」と同種の英語には、「Haste Makes Waste」や「Make haste slowly
急ぐならもっとゆっくりしろ」があります。
フランスには「ゆっくり行くものは確実に行く」がありますし、イタリアには「
ゆっくり行くものが遠くまで行く」があります。
諺というのは普段ほとんど意識していませんが、急いでいて悪い結果になった時など
には身に染みて感じられるものです。
そして、失敗してみて急がせていたものは自分の欲や慢心だったと気付きます。
欲や慢心こそ悪魔のご馳走なのです。
急ぐことが全て悪いのではなく、裏に欲や慢心がある場合が危険なのです。
そして、急がされている時というのは、案外自分の欲や慢心でそうしているとが多いのです。
「急いでいると悪魔が手伝う」という句は、それに気付けと云っているのです。
選択肢として安全航路でゆっくり行くか、又は何もしない方がいいということもあるのです。
古人もこんな歌を残しています。
「一日に十里の道をゆくよりも、十日に十里ゆくぞ楽しき」(道歌)
☆ 大乗仏教のパラドックス
言葉には心を開放してくれる力がありますが、その一方で限界やマイナスの面も併せ持
っているというのが言葉の真実です。
限界やマイナスの面とは、心を縛りつける働きが言葉にあるということです。
つまり、言葉にはそれに対応するものが実体として存在していると脳に思わせてしまう働
きがあるのです。
言葉が現代ほどには溢れていなかった大昔でも、それに気付いていた人々がいました。
釈迦の教えを引き継いで発展させて行った大乗仏教徒です。
今から二千年位前に作られた大乗経典に「金剛般若教」があります。
この中に「AはAにあらず、ゆえにAという」というパラドックスが書かれています。
これは一体何を云おうとしているのでしょうか。
定方晟氏は著書「空と無我」で、Aを薔薇に置き換えて説明しています。
薔薇(言葉としての薔薇)はそこに見える薔薇とは違うし、薔薇の概念に過ぎない。
言葉としての薔薇は実体として何も存在しないのである。
その意味で言葉とは他から区別する為の道具に過ぎない。
だから、薔薇という言葉は他から区別する為に薔薇と命名されただけである。
という趣旨のことを書かれています。
大乗仏教では言葉に対応する実体があると思うのが妄想だと見るのです。
ニーチェも同じことを云っています。
「実体としての自己を信じて、自己という実体の信仰を万物に投影する」
「偶像の黄昏」
ニーチェは過去の西洋哲学を否定して実存哲学を切り拓いた人です。
大乗仏教は最近まで忘れられていた思想ですが、こうして見ると
最もポストモダンな思想だったのです。
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