情報のコーディネーター  第146号
     
           令和4年6月30日発行
           窮すれば通ず。 情報こそ反転の力なり。 コトバで心の壁を破れ。

                      今回の目次
       □  代書人は司法書士と行政書士の共通の先祖だった


  司法書士業務と行政書士業務の境界がぼやけて見える時があります。

  例えば、相続放棄申述受理申立書や相続放棄申述受理証明申請書(以下申述書等と
いう)のような紛争性のない裁判所提出書類(これらは事実証明に関する書類と見させる
側面があります)の作成を、行政書士は出来るかという問題提起がなされた時などです。

  行政書士法第1条のニ第2項で「・・・他の法律において制限されているものについては
業務を行うことができない」と規定されており、

  司法書士法第73条では「司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でな
い者は、第3条1項第1号から第5号に規定する業務を行ってはならない」と規定されてい
るからです。  4号が裁判所提出書類です。

  ただし、この規定は、他の法律で他士業の業務独占とされている業務を行政書士は
行うことが出来ないという意味だと、解されています。


  さて、最近、代書人と呼ばれていた明治時代の旧法にまで遡って考察し、裁判所提出
書類の作成業務は司法書士の業務独占とされていないから、弁護士と司法書士と行
書士の共管業務だ
とする主張があることを知りました。  以下に整理して書きます。


<明治~戦前まで>

  明治5年の法令では、代書人が訴状など裁判書類を作成して、代言人(現代の弁護
士)が訴訟代理人を担当していました。
 
  初めは裁判所関係書類の作成は代書人の業務独占だったのです。 
それが、明治39年になると独占業務は文書と図面の作成に限定され、裁判関係で
代書以外の干与、鑑定、紹介をすることは代言人の独占業務とされたのです。


  大正8年に司法代書人法では、裁判所と検事局に提出する書類の作成が司法
書人の業務となり、
それ以外の一般・行政関係書類の作成は一般の代書人の業務
とされました。
  
  それまでは、裁判書類、登記書類(裁判所の管轄だった)も、役所・警察署関係書
類の作成も代書人の業務だったのです。  

  尤も、裁判に関する書類に限っては、代言人が作成していましたから、司法代書人
が代書していたのは登記書類が中心でした。

  やがて、登記事務は法務局に移管されその後に出来た司法代書人法では、登記
書類を中心としていた代書人を司法代書人とし、裁判所
に提出する書類は前から取
り扱っていたので残した
のです。

  つまり、司法代書人の業務に裁判所提出書類があるのは、かって代書人が裁判関
係全般の書類を取り扱っていたその名残に過ぎず、司法代書人の独占業務とする趣
旨ではなかったのです。

  大正9年の代書人規則で、代書人の業務は他人の嘱託を受け官公署に提出す
べき書類その他権利義務又は事実証明に関する書類の作成とされました。

  代書人の業務は役所・警察署関係書類を中心とする代書ですが、行政庁ではなく
「官公署」とされていることから、紛争性がなく事実証明に関する文書と扱える裁判所
書類の作成まで除外する趣旨ではないと解釈出来ます。



<戦後から>

  昭和25年の旧司法書士法では、他人の嘱託を受けて、裁判所、検察庁又は法務
若しくは地方法務局に提出する書類を代って作成することを業とするとされました。

  昭和26年の行政書士法では、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する
書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とするとされまし
た。

  つまり、行政書士は大正9年の代書人規則で規定された代書人の業務を継承して
いることは明らかです。


  平成9年の衆議院地方行政委員会で政府委員は 「官公署の意味は、広く立法機
関及び司法機関のすべてを含むもの
と解されている」と発言しています。


  行政書士法の方が旧司法書士法より後に出来た新法ですから、新法の解釈が優
先します(新法は旧法に優先する)。

  従って、司法書士が全ての裁判所提出書類を独占している訳ではないというこ
とになります。

  現に、司法書士法第3条第1項で規定する次の司法書士業務を見ても、

   2号  法務局又は地方法務局に提出する書類の作成
   4号  裁判所若しくは検察庁に提出する書類の作成

  2号の書類では、行政書士は法務大臣宛の帰化許可申請書を取り扱っていますし、
  4号の書類では、事実証明に関する書類として紛争性のない裁判所提出書類が取り
             扱われた事例があります。

 
  以上は、次の小林哲也行政書士のブログを参考に整理致しました。

   http://www17.plala.or.jp/t-koba-office/column11.html

  ただ、判例で「官公署に提出する書類に、裁判所に提出する書類が含まれると解す
ことはできない」(平成19年10月2日福岡高等裁判所宮崎支部判決)とされ、上告審
も棄却されています。

  最高裁でもこの解釈に立っていますから、「官公署」の文言の意味で争うのはムリ
のようです。  

  しかし、裁判所書類には申述書等のように紛争性がなく事実証明に関する書類と
見なせる書類が混じっているのも事実ですし、代書人が司法書士と行政書士の共通
の先祖であったという歴史から見ましても、共管業務であると争える余地はあるよう
な気もします。



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