職人型内容証明仕掛人の方法論 !  第63号
         [ 旧タイトル  内容証明郵便でブレイク! ]
               平成20年12月2日発行
    職人型内容証明仕掛人が一発解決を目差す合法的仕掛け作りのノウハウ。

              今回の目次
        □ 連帯保証契約と動機の錯誤その2
        □ 情義的連帯保証人って何?



   □ 連帯保証契約と動機の錯誤 その2

  前回の続きを書きます。

  東京高裁平成17年8月10日判決で「短期間で倒産に至る程の破綻状態にはないと
信じたことに動機の錯誤があり、
動機は黙示的に表示されているとし、要素の錯誤に
より連帯保証契約は無効」と判示しています。


  新進気鋭の民法学者能登真規子滋賀大准教授に拠れば、
従来の裁判例と対比して本判決の独自性が最も示されているところは、「動機について
の黙示による表示をその法律構成の中に取り入れた点」なのだそうです。

  どういうことかと云いますと、「動機が表示されない時は「要素の錯誤」とはならない」
(最高裁昭和29年11月26日判決)とされていたのを、動機の黙示的な表示でも表示に
なると解釈した点が画期的なのです。

  黙示的な表示とはどういうことなのでしょう。
判決理由には、「およそ融資の時点で破綻状態にある債務者にために保証人になろう
とする者は存在しないというべきであるから、保証契約の時点で主債務者がこのような
意味での破綻状態にないことは、保証しようとする者の動機として、一般に、黙示的に
表示されているものと解するのが相当である」とあります。

  要するに、主債務者が破綻状態にないことが保証契約の内容になっていると、
この判決は判断しているということです。
                        
  四宮和夫氏の「民法総則第三版」を読んでいて、大変興味深い記載を見付けました。
整理しますと、
イ 昭和10年1月29日大審院判決では、動機の表示がなくても当事者の予期と事実
 との食い違いが著しい場合には要素の錯誤が認められると説いている。
ロ 近時の有力な学説は、錯誤はその性質上表示することと相容れないとし、取引
 安全との調和は「要素」の解釈及び相手方の事情(悪意又は過失の有無)で図るべき
 とする。 従って、無償行為の場合は、相手方の悪意又は過失は要らないことになる。
ハ また、相手の事情を考慮する学説の中には、錯誤に陥っている事項が錯誤者に
 とって重要であることを相手方が知り又は知りうべきであった場合に相手方の悪意
 又は過失を認めるべきとするものがある。

  東京高裁判決というのは、これらの従来からあった考え方を取り込みつつ伝統的な
見解と旨く統合させているように私には思えるのです。

  それから、空クレジットの連帯保証契約に関する最高裁平成14年7月11日判決も
多分影響を与えていると思われます。 この最判決では「空クレジットではなく正規の
立替払契約であることを当然の前提とし、これを保証契約の内容として意思表示を
した」として錯誤無効を認めています。
  本判決では空クレジットであるという事情を動機の錯誤というより当事者の前提事情
の錯誤だとしています。 
  しかし、空クレジットの連帯保証人になる者などいないという経験則からすれば、
空クレジットではないという動機が黙示的に表示されていると解することも出来ます。

  この最高裁判決こそ伝統的見解という呪縛を解き放つ画期的なものですが、
これを踏み台にして高裁判決はさらに動機の錯誤という民法最大の難問に
切り込んでいるのです。


   □ 情義的連帯保証人って何?

  中小企業が融資を受ける際、代表取締役を連帯保証人にするのが通常であり、
会社の経営者として会社債務を連帯保証するに当たり情義性はありません。  
  しかし、個人の事業者が融資を受ける際には、親戚、友人、会社関係者、従業員など
に連帯保証人を依頼することになります。 これらの場合、債務者に義理があり断わり
切れないという事情で連帯保証人になることから、情義的保証人と呼びます。

 通常の連帯保証人と情義的保証人の違いはどこに現れるのでしょうか。
従来の判例では、債務者が自己破産して連帯保証人から錯誤無効が主張された時に
違いがあったようです。

  つまり、情義的連帯保証人というのは、義理でなるのであるから債務者の資力という
動機の影響は少ないと考えるのです。 ですから、通常の連帯保証人に比べ錯誤無効
が否定され易い傾向にあったのです。

  しかし、前述の高裁判決や最高裁判決では、この情義性は考慮されていません。
連帯保証人が事前に知り得れば連帯保証人になる筈もないという事情があれば、
錯誤無効が認められのですから、通常の連帯保証人との実質的な違いは解消した
ように思えます。


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