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こうやって支払停止の抗弁をせよ!
~ クレジットの契約構造・支払停止の抗弁事由・商行為 ~
レンタルオーナー商法は隠れマルチ
最近、レンタルオーナーという妙な契約に関する相談が、消費生活センターに2012年以降年数百件も
あると云います。 しかし、注意喚起をするだけで、実際の民事的救済の方法には全く触れていません。
平成30年の2月頃から、当事務所にもレンタルオーナーに関する相談がボチボチ来るようになりました。
平成29年11月頃からレンタル料の支払いがストップして、クレジットの残債180万円~150万円位が残った
というものです。
<事例>
イ 会社員のCは友人から紹介されたAと喫茶店で会い(Aとは電話とラインの遣り取りのみの場合もある)、
Aからトライクレンタル事業への参加を勧誘される。 Aの紹介する中古トライク専門店Bと中古トライク
(150万~250万円位)の販売契約を締結してオーナーになる。
当該トライクはBからレンタル業者を経て沖縄や星野リゾートなどのリゾートホテル等にレンタルされる。
当該トライク購入代金の支払いはクレジットにする(毎月3万円位の84回分割払い、72回、60回もある)。
ロ トライクのオーナーにはAからレンタル料として毎月のクレジット分割金+トライク購入代金の1%が毎月
25日に口座に振込まれる他、新規のオーナーを開拓すると紹介料として15000円が支払われる。
Aは「トライクのレンタルは好調なので5年~7年間のクレジット支払期間中は、Aから毎月のレンタル
料の支払いが止まることはない」と念を押したので、CはAとの取引に同意した。
ハ しかし、平成29年11月からAの支払いが停止し、レンタル業者も2社が倒産した。
以下は私が考えた法律構成及び論点整理です。
1 まず、 AC間の取引は、以下の理由で販売あっせん型の連鎖販売取引(マルチ商法、特定商取引
法第33)と考えられます。
イ Aはレンタル用トライクのオーナー兼個人特約店の開拓(販売のあっせん) をしている。
ロ Aは特定利益(毎月のクレジット代金相当額とトライク購入代金の1%の合計額及び紹介料)
を収受し得ることをもって誘引し、Cがトライク購入代金232万円という特定負担を伴うこと
を条件にレンタル用トライクのオーナー兼個人特約店になる取引である。
Cは契約締結時、会社員であるから取引は無店舗個人契約である。 よって、割賦販売法の
適用がある。
ハ Bはトライクの販売をAに委託している。 BとAは提携関係にあり、BはAから紹介された
顧客とトライクの販売契約を締結して、当該トライクをA又はAの代理人に引渡している。
Aは一般連鎖販売業者であり(特定商取引法第33条の2)、Bはその補助者である。
ニ Aからの支払いが平成29年11月から停止していることから、Aが「7年間又は5年間のクレジット
支払期間中は、Aの毎月の支払いが止まることはない」と云ったのは、不実の告知である。
ホ よって、CはAとの取引を取消出来る。 その結果、この取引を前提とするトライクの販売
契約は無効となり、クレジット会社に対しては支払停止の抗弁事由となる。
(なお、クレジット会社は連鎖販売取引であったことを認めていない)
ヘ しかし、連鎖販売取引に関する概要書面と契約書面がAから交付されておらず、クレジット会社
から個別クレジット契約の表面に現れていない裏の事情と見做され兼ねない。
そこで、二次的にトライクの納車未了を支払停止の抗弁とする。
2 証拠資料の検討
イ 自動車検査証(250CC以下は軽自動車検査済証)・・・・・所有者の名義がクレジット会社になっていな
ければ、クレジット債務の延滞時に自動車を引揚げて換金出来ない。 然るに、顧客の名義
になっており、クレジット会社は所有権留保という担保権を事実上放棄しているに等しい。
ハ 納車完了証・・・・・納車予定日を告げているに過ぎない。 Aへの引渡しを以て納車の見做す旨の
記載はなく、当該トライクと特定できる自動車登録番号、車体番号、商品名の記載もない。
ニ 現状販売についての同意書・・・・・Cが試乗し不具合がないことを確認した後Cに引渡すと記載され
ており、納車手続をAに一任していない。
ホ トライク買取り誓約書・・・・・個別クレジット契約の締結後にAから郵送されて来たものである。
買取りはクレジット残債を一括した買主がCからトライクを譲渡されるという市場で行われて
いる取引であり、違法性はない。
3 Bの違法行為又は欺罔行為について
① 当該トライクが今、行方不明になっている責任
BとCにはトライクのレンタルに関し提携関係があり、それに基づきBは直接Aに引渡しているが、
Cとの関係で云えば、Cへの納車義務を勝手に破ったのはBの債務不履行であり、トライクを
行方不明にした責任を負うのが当然である。
② Bは納車偽装工作をしていることがある
Bは買主の自宅までトライクを搬送して来て家の前で写真を撮ると、そのままトライクを引揚げて
行くという納車偽装工作をしていることが一部にあった。
この写真は買主への納車の証拠写真として残す為と思われる。 つまり、BはCへの納車義務
を認識していたことを示す事例である。
③ AとBは、自動車やバイクの運転免許証を保有していない人にも販売していた。
④ AとBは、クレジット会社からの確認電話時に「自己使用目的です」と答えるようCに指示していた。
4 通信販売ではなく訪問販売ではないかという疑問
クレジット会社は個別クレジット契約書を交付していませんが、これはCとBの販売契約を通販と見
做しているからです。
しかし、Aが車種と車両の選別や契約条件を独りで決めてBに手配後、届いた注文書にCが署名・
押印して郵送しただけであり、CがBの広告や表示を見て郵便等で申込をした訳ではないので、通販
ではなく、喫茶店での契約ですから訪問販売になり、Bには販売契約書面の交付義務があり、クレジ
ット会社には申込書面と契約書面の2つを交付する義務があります。
訪問販売であれば、交付義務のある法定書面は以下の4通になります。
販売店 B → 注文書と契約書
クレジット会社 → 個別クレジット申込書と個別クレジット契約書
しかし、Bは契約書面を交付しておりませんし、個別クレジット契約書を交付しているのはセディナ
だけで他はしていませんし、個別クレジット申込書についてはどこも交付しておりません。
法定書面の一部不交付は特定商取引法と割賦販売法に違反すると思われますから、販売契約と
個別クレジット契約は共に不適切な契約です。 であれば、最高裁判例に拠り信義則からクレジット
会社の支払請求を拒み得ます。
5 その他の疑問点
イ セディナは裁判外の催告書又は訴状で和解案を提示していますが、その和解条件は残債務額を
据え置き、分割回数を100回~180回に伸長するというものです。
ロ 当該中古トライクの市場価格(走行距離が同じ程度)をネットで調べたところ30万円台なのにそれ
より4倍の価格(新車並みの値段)で個別クレジット契約が組まれているのがあります。
6 総括 トライクのレンタル需要はどれ程あるのか
さて、レンタルオーナー商法というのは、7年間約束通りの支払いがあるとすれば、オーナーはクレ
ジット代金の支払いを免れる上に168万円程度の収益が入って来ることになります。
しかし、うまい話には落とし穴があるのです。
トライクとは三輪バイクのことです。 上記Bではアメリカのハーレーダビッドソン社製の700㏄以上
の中古トライクの他、スズキ、ホンダ、ヤマハ、カワサキの中古トライクを扱っており、値段は150万円
~250万円位です。
しかし、トライクのレンタルの需要がどれ程あるのか甚だ疑問です。
ネットで調べても、沖縄の観光地の広告にトライクの名が見られるものの、星野リゾートやヒルトン
ホテルやハウステンボスなどのHPではトライクのレンタルという文字を見ることが出来ません。
リゾートホテルの観光客の中にトライクのようなマニアックなバイクに乗りたいと思う人がどれ程い
るのでしょうか。 レンタル料そのものが廉価であり、利用者が少しいる程度では儲からないので
はないか。
実際に東京では大型バイクのレンタル店が殆ど撤退しており、千葉ではトライク専門店が多いも
ののレンタル店は少ないと云います。
「村山モータース」というハーレーダビッドソンの正規販売代理店は、平成30年7月18日に東京地
裁で破産手続開始決定を受けました。 1992年に24億あった売上が3億7千まで落ち込んでいた
と云い、オートバイの需要は毎年減り続けていたのです。
結局、バイク人気が低下した中、トライクレンタルの需要が大きいとは思えず、顧客の開拓に限
界のあるマルチ商法と絡めたレンタルオーナー商法は途中で破綻するのが必至だったのです。
トライクレンタル代理店の実体はあり、Aからの振込も2年間あったとなれば、詐欺で告訴し
ようにも警察は動かない可能性があります。
<本トライク案件の近況>
1 セディナと個別クレジット契約を締結した顧客の一部を、平成30年春頃にセディナが提訴し、アプラスと
ジャックスは平成30年秋に顧客の一部を提訴しております。 しかし、オリコはまだ提訴していません。
また、セディナは平成30年6月に販売店に対し立替金返還訴訟を提起しており、回収したら顧客の残金に
充当すると通知しています。 他のクレジット会社も追従すると思われます。
2 個別クレジット契約の締結から暫く経過してから顧客が運輸支局で調べたところ、車検証の所有者名義
が、勝手に他人名義に変更されているのが判明しました。 販売店が同じトライクを何回も販売していた
可能性が浮上して来ました。
もしそうなら、Bに窃盗罪か詐欺罪、Aにはその共犯の疑いが生じます。
3 セディナのある顧客に対し東京地裁で平成31年3月13日付判決がありました。 敗訴でした。
裁判所の判断の中で、被告はクレジット会社からの確認の電話時に、自己使用目的その他積極的に虚
偽の事実を告げて取引実体のない本件クレジット契約が正常な取引実体があるかのように偽装していた
とし、納車未了を以て支払停止の抗弁を主張するのは信義則に反し許されないと判示しています。
裁判所は、クレジット会社の電話調査における信義則上の誠実対応義務を重視し、被告がレンタル目
的であること認識していながら「自己使用目的」と告知したことなどがクレジット会社に対する欺罔行
為であったと認定していました。
判決は個別的に下されるとはいえ、類似する他のトライク訴訟でも同様の判断が出る可能性が拭えな
いと考えられます。
4 現在、提訴された顧客とクレジット会社の間では、残債務額を据え置き、分割回数を100回~180回、
利息は付さないという条件での和解が成立しつつあります。
5 トライクのレンタルオーナーを仲介したAは別件の詐欺事件で逮捕され、販売店Bは閉店しています。
なお、レンタルオーナー商法の商品としては、トライクの他にパチスロ機、太陽光発電のパネル、
コンテナ、クレジットカード決済端末機、ウォーターサーバー、FAXなどの情報通信機器があります。
2018.7.31 作成
2019.3.20 更新
2019.8.8 更新
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行政書士 田中 明事務所