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                  行政書士田中 明事務所


 [ コラム ]  公証人が使用する文言あれこれ 
                 〜登記実務が迂遠になる場合も〜
     参考 かしこい遺言書を残そう!

1 「遺贈する」を「相続させる」と書くことがあります。

  マンションをAさんに遺贈したい場合、公正証書遺言で「マンションをAに遺贈する」と、記載すれば十分の
はずです。   しかし、Aさんが相続人である場合、「マンションをAに相続させる」と公証人が書く場合があ
ります。   

  この記載方法については判例でも認められ、「遺産分割の方法を定めたもの」とされています(H3・4・19 
最高裁判決)。
  しかし、これに問題がないわけではありません。   例えば、遺言者が配偶者も子もないAさんの妹Bさん
であった場合、Bさんが死亡する前に、BさんがCさんを養子にしたらどうなるでしょうか・・・。

  Bさんが亡くなると、Cさんに相続権が発生し、Aさんは相続人から外れ、慌ててAさんが遺贈登記を申請し
ても登記官には受理されないはずです。   結局、あの公正証書遺言ではマンションを貰えなくなるのです。   
もし「マンションを遺贈する」になっていれば、Cさんが養子になってもマンションの半分は貰えたのにです。
                            
  なぜ、こんな危ない公正証書遺言を作るのでしょうか。   その理由は相続登記の登録免許税が遺贈登
記のそれより五分の一であることによるらしい。   
    
  しかし、現在の税法では相続人に遺贈する場合でも登録免許税は相続登記と同じ0.4%で、相続人以外に
遺贈する場合に限り2%になります。
  ですから、相続人に遺贈する場合にわざわざ「相続させる」と書く実益
は失われています。
2 「遺贈する」を、「売却代金を遺贈する」と書くことがあります

  「マンションをAに遺贈する」とすればいいのに、「マンションを遺言執行者に売却させ諸経費を控除した残
代金をAに遺贈する」と公証人が記載することがあります。   マンションの売却まで遺言執行者にさせる
のは、受遺者が遠方にいるからとか要するに受遺者の利便を考慮してのことらしいのです。

  遺言執行者から見ると、これは遺言執行の事務を甚だ煩瑣にするのです。  何が煩瑣かと言うと、登記
関連の事務です。  「マンションをAに遺贈する」であれば、遺言執行者と受遺者で遺贈登記を共同申請出
来ます。 受遺者の戸籍謄本と委任状があれば、遺言執行者一人で出来ます。  

  しかし、「・・・・代金を遺贈する」になっていたら、さあ大変です。 まず相続人全員の戸籍謄本等を収集して
相続登記の申請をしなければなりません。 次に買主と遺言執行者の共同申請所有権移転登記をするとい
う2段階の流れになります。

  相続登記には、相続人全員の戸籍謄本と住民票、及び被相続人との繋がりの分かる全ての除籍謄本等
が必要です。   被相続人に子も配偶子もいなければ兄弟が相続人になり、死んでいる場合はその子が
代襲相続します。  被相続人に兄弟が多くしかもほとんど亡くなっているとすれば、相当な数の子が代襲
相続人になります。  代襲相続人全員の戸籍謄本を収集するのに掛かる労力と時間は、決して馬鹿には
なりません。

  結局、このような文言にすべきかは事前によく検討すべきなのです。  後の事務の煩雑さと秤に掛けて、
相続人の数が多そうと思ったら何も無理にこの文言を使う必要はないというのが私の結論なのですが・・・・・。
<余談ですが>

  遺言書の文言が「・・・・代金を遺贈する」となっている場合にまず相続登記をすることについては、いろ
いろ面白いことがあります。   相続登記をすることは昭和45年10.5民事局長回答にあり、法務局も
これで運用していることは間違いありません。

  こんな登記にする理由は、中間省略登記の禁止にあります。  つまり、所有権移転の実体をその
まま登記にも反映させようというわけです。

  さて、相続登記というのは相続人が単独申請出来るものなので、相続人の誰か一人から委任状を
貰えば誰でも代理申請することが出来ます。  
  尤も、本相続登記は遺贈登記の一環としてなされるものです。   従って、遺言書で遺言執行者が
指定されていれば、遺言執行者は相続人の代理人ですから、遺言執行人の印鑑があれば司法書士
その他に代理申請を委任出来ます(法務局の見解)。

  そして、買主の所有権移転登記申請では、遺言執行者と買主が共同申請します。  
因みに遺贈登記では遺言執行者と受遺者の共同申請になります。
                            
  こんな迂遠とも思える二段階の登記をすることについては、一部の司法書士などから批判があること
も事実です。 
  例えば、相続人に不動産譲渡取得税が掛かるのではないかとか、受遺者に贈与税が掛からないのか
という問題です。

  この不動産移転のそもそもの原因は遺贈なのです。  しかし、「代金を遺贈する」となっている為にや
むを得ずまず相続登記をしてそれから移転登記をするという流れにしているだけなのです。   
相続人は登記上に一端現れるとしても、現実に譲渡益を享受するわけでもありません。 
また受遺者は本来が相続税の対象となるのだから、贈与税は対象外となるはずです。

  だから、登記の流れがそうだからと言って、実質が遺贈である以上そんな課税を考えることは空論では
ないのか・・・・。   もっとも、税務署によれば、不動産譲渡取得税は値上がりしていた場合掛かるが、
贈与税は掛からないとのことですが・・・・。
                            
  結局、本案件は結構奥の深い問題を孕んでいるのです。 事の始まりは、公正証書遺言の「代金を
遺贈する」という表現にあります。

  私見としては、極力この表現は避けるべきと考えます。  どうしても避けられないのであれば、もっと
簡略で合理的な登記実務に改善されるべきです。

  例えば、中間省略登記の禁止の例外として、遺言執行者による遺贈登記とするとか、又は相続登記
なしでの所有権移転登記を認めるべきでしょう。   そもそも中間者として現れては消えていく相続人
には、登記により保護すべき実益は何もないのですから。
      

      遺言書原案の段階で是非当事務所までご相談下さい。
 
             
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