トップ >  エッセーパートV >   グレーゾーン金利を葬った最高裁判決    サイトマップ




    < エッセー> グレーゾーン金利を葬った最高裁判決

  1990年のバブル崩壊以後、日本はずっと低成長が続き失われた20年と云われて
います。   そんな中、右肩上がりで融資残高を拡大させて行ったのが消費者金融
でこの時期に大手5社は次々と東証1部に上場を果たします。   
  株価は一時1万円近くまでなったこともあり、武富士、アコム、プロミスの経常利益
はつい最近まで1000億を超えていました。  
消費者金融業者の無担保融資の貸出
残高は、平成17年3月末で15兆5000億円ありました。   その内、グレーゾーン金利
による貸出残高は12兆円で全体の76%(件数では80%)に当ります(金融庁の資料より)。
消費者金融業の収益構造を単純化して書きますと、
 融資残高を1兆円とすると金利は年27%ですから →営業利益は2700億円
 人件費その他固定費が1700億円とすると     →経常利益は1000億円になります。

  平成19年4月〜平成20年1月に掛けて大手4社は、最高裁判決(グレーゾーン金利を
原則無効とした)を受けて金利を年18%に引下げています。
 そうすると  融資残高1兆円 金利年18% → 営業利益は1800億円となり
         固定費が1700億円なら    → 経常利益は100億円まで低下します。

  つまり、消費者金融業者の収益というのは殆どグレーゾーン金利に依存した構造に
なっていたのです。   消費者金融大手4社は平成17年3月期決算で合計1兆7000億
円という膨大な赤字を計上するのですが、それは消費者金融各社が過払金返還請求
の嵐を予想して膨大な過払金引当金を計上した結果なのです。 
  貸出残高の76%がグレーゾーン金利の貸出だったのですから、これから何年も過払
金返還請求が発生し続けることになります。   経常利益1000億なんて夢のまた夢の
話になってしまったのです。
                      ж
  利息制限法の上限金利から29.2%(出資法で罰則が課される金利)までの金利をグレ
ーゾーン金利といいます。   消費者金融業者にグレーゾーン金利の27%での貸出が
なぜ可能であったかと云えば、出資法の罰則が適用されない範囲であったことと貸金
業規制法のみなし弁済が完全否定されていない状態がずっと続いていたからです。
  その間、消費者金融業者は融資残高を年々拡大させて行き、その陰では悲惨な事
態が発生していました。  つまり、高金利という泥沼に嵌まり込んで抜け出せなくなっ
てしまった悲惨な人々(借りて来ては返すも残元本は減らず逆に増え続けるという自転
車操業に陥っている)が年々増加の一途を辿っていたのです。
  平成15年の資料に拠れば、多重債務者が150万人〜200万人、自己破産者が年に
20万人、経済苦・生活苦による自殺者が年に8000人と発表されています。
                       
  さて、利息制限法の特別法である貸金業規制法第43条1項の「みなし弁済」規定は、
昭和58年(1983年)に議員立法で成立したものです。   「みなし弁済」とは、利息制限
法の制限金利を超える金利を債務者が任意に支払った場合は有効とするというもので
す。   前々から債務者の中には任意に支払った訳ではないとして過払い返還訴訟を
提起する人はいましたが、下級裁判所の判断は「みなし弁済」の要件を緩く解釈するも
のと厳格に解釈するものとに分かれていました。  
 上告までは争われず結局「みなし弁済」に関する最高裁判決がないという状態が長く
続いていたのです。
  しかし、東京地裁がATMでの返済に「みなし弁済」の適用を否認する画期的な判決
を出した頃から変化の兆しが見られます。
「  ATMで返済すると、元本、利息、遅延損害金にそれぞれいくら充当したという受領
 明細書が発行されるが、これでは、事後的に債務者が約定金利による利息の額を
 知るに過ぎず、債務者が約定金利による利息としての認識で任意に支払ったとはい
 えない
(平成9年2月22日東京地裁判決)。

それから7年程経過した平成16年から平成21年に掛けては重要な最高裁判決のラッ
シュとなり、グレーゾーン金利は葬り去られて行くことになります。
 判決要旨を簡単に整理しますと
 平成16年2月20日判決 →天引利息に「みなし弁済」は適用されない
 平成17年7月19日判決 →取引履歴の開示義務がある
 平成17年12月15日判決 →リボルビングによる返済に「みなし弁済」は適用されない
 平成18年1月13日判決 →グレーゾーン金利の延滞で期限の利益を喪失する特約
                   の下では「みなし弁済」は適用されない
 平成19年2月13日判決 → 過払い金は年5%の利息を付けて返還すべきである

  この中で最も重要な判決は平成18年1月13日判決(シティズ事件)で、この判決で
貸金業規制法第43条1項の「みなし弁済」規定は空文化したとされます。
判決理由ではこう云っています。    →判決全文
イ 約定利息の支払いを怠ると期限の利益を当然に喪失するとする特約条項がある
ロ それがある為、支払義務を負わない制限超過部分の利息の支払いを事実上
  強制することになる
このような特約の下で債務者が利息制限法の上限を超える利息を支払っ
 ても
債務者の自由な意思により支払ったとは云えない

 この判決により消費者金融業者は利息制限法の上限を超える利息(制限超過部分
の利息)を取れなくなったのです。  消費者金融大手は改正貸金業法の施行を待た
ずに平成19年4月〜平成20年1月に掛けて金利を年18%まで引下げており、これが
「みなし弁済規定」の空文化を何よりも物語っています。

 国会が この判決を受けて「みなし弁済」規定を削除した改正貸金業法を成立させ
るのは、平成18年12月13日のことです。
                                           2010.10.19



               
                   行政書士田中 明事務所