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    < エッセー>  トヨタはGMと違うのか

  GMの2006年の自動車の販売台数は936万台でトヨタとほぼ同じでした。   しかし、
従業員数ではトヨタは6万人であるのに対し、GMが25万人もおり1時間あたりの労務
コストもトヨタが58ドルであるのに対しGMが76ドルも掛かっています。  今期は車1台
生産するのにトヨタが6万円の利益が出ているのに対し、GMは11万円の赤字を出して
いたのです。  つまり、年で1兆296億円の赤字が出る計算になります。  こんな赤字
会社のワゴナー会長は13億円の報酬を取っていたと云いますから空いた口が塞がりま
せん。
  GMの凋落は凄まじ過ぎます。 GMの2008年10月新車販売は前年より45%減です。 
GMの主力である大型車がここに来て急激に売れなくなっているのです。  アメリカを
象徴する大企業GMがなぜこうなってしまったのでしょうか。  整理しますと以下の通り
です。
 イ 次世代低燃費小型車や代替燃料車の開発に消極的であった。
 ロ 工場の設備が老朽化し、昔ながら大型車の生産ラインしかない。
 ハ 従業員の医療費のGM負担額が巨額で生産コストを押し上げている。
 ニ モデル(車種)は多過ぎ、1モデル当たりの販売台数が少ない。
    例  GMは81モデルなのに対し、トヨタは27モデル。
 ホ 大幅な値引きに拘らず、新車が売れない。
 ヘ GMの利益の80%は金融子会社GMACの稼きであるが、
    その自動車ローンが金融危機で伸びない。

  GMを見ていると戦前の日本の巨砲巨艦主義を連想してしまいます。 低燃費で
性能がいい日本車がアメリカの消費者に好まれどんどん売上を伸ばしているのに、
GMの経営者は物凄くガソリンを食う大型車に拘り続けて来ました。
  そこに環境重視の潮流が襲って来たのです。  低燃費で廉価な小型車志向が
若者からシニアまで広まって、GM車が見向きもされなくなってしまったのです。
  市場の動向に何の打つ手も取らなかったGM経営者の責任は誠に重いのです。
今では株価が1ドルまで低下し、社債はジャンク債と同じ格付けまで下がっています。
  GMは遂に2009年6月1日、連邦破産法第1条の適用を申請しました。 
GMの資産総額が8200億ドル(約8兆円)であるのに対し、負債総額は1728億ドル
(16兆4000億円)です。  メーカーでは過去最大、企業全体でも史上4番目の経営
破綻です。  GMは今後「グッドGM」と「バッドGM」に分割し優良資産を「グッドGM」
に移管しますが、新GMは株式の60.8%をアメリカ政府が保有する国営企業となって
再生を図ることになります。 新GMでは従来の株主の権利が10分の1にまで削減
されます。
  その後、2009年7月に破産法管理下から脱却したGMは、2009年の赤字を43億ド
ルまでに減らした他、2010年末には黒字に転換する見通しで、公的資金67億円を
2010年4月に完済しています。  因みに、市場シェアが18.7% (前年20%)と減ってい
るものの2010年第一四半期の売上が前年同期比で17%増となり、再建の兆しは見
え始めているように思えます。
     
 一方、 トヨタですが6年前に経常利益が1兆円を超えています。 2007年の実績を
GMと比較すると次の通りです。
             生産台数        販売台数
    トヨタ      995万台       936万9524台
    GM       985万台       936万6418台

  トヨタは2008年に生産、販売、売上高で三冠を達成すると云われていたのですが、
ここに来て販売見通しが754万台に下方修正された上、最終的に営業損益が1500
億円の赤字という事態に陥ります。 ちなみに前年の営業損益が2兆2703億円もの
黒字であったというのにです。
 トヨタの連結決算    売上高       営業損益     純損益
       2007年  26兆2800億円   2兆2700億円   1兆7241億円
       2008年  21兆5000億円     -1500億円       500億円(97.1%減)

  トヨタが営業損益で赤字となるのは、実に決算書が残る1941年以来初めてのこと
です。  2009年はどうかというと営業損益が4500億円の赤字、純損益は3500億円
の赤字でした。  2年連続の赤字でもトヨタの自己資本は12兆円(内部留保)もある
から資金繰り倒産の心配など要らないというのが大方の見方です。
  しかし、一部の識者に拠ればそうでもないようです。 財務諸表を分析すると、12兆
円の内の11兆円はフィクションの類で経営的に見た純資産として残るのはせいぜい
1兆円で、それも直ぐにキャッシュになるものではないことが分かるという。
  つまり、トヨタは借入金に頼らざる得ない財務体質になっており、現に有利子負債が
12兆2000億円に達しているのです。
  トヨタの経営悪化の真の原因はリーマンショックなどではなくて、10年来の経営陣
の財務戦略の失敗にあるとこの識者は云うのです。
 トヨタが有利子負債を約定通り返済出来ないことにでもなれば、銀行の評価が下が
って借入金利が上昇し赤字のスパイラルに陥らないとも限らないと警告しています。
トヨタはGMとは違うのだと思っている多くの日本人を覚醒させる論評と云えます。
下記ブログに上記識者の記事が載っています。
  http://blogs.dion.ne.jp/spiraldragon/archives/8233466.html
 



                  行政書士田中 明事務所