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                                行政書士田中 明事務所


   < コラム >  

  アディーレ法律事務所の業務停止処分の裏にあるもの

  弁護士法人アディーレ法律事務所は185人もの弁護士を抱え77カ所に支店を持つ国内で6番目に
大きな法律事務所です。  同事務所の創設は2005年(平成17年)で、ここ10年で急成長しました。 
  
  急成長の理由は、成18年1月13日の最高裁判決(利息制限法の上限金利を超えて支払った金利
を無効つまり過払いとして、高金利27%の拠り所であった貸金業法第43条の「みなし弁済規定」を
空文化した)以降全国で巻き起こった消費者金融会社に対する過払い金返還請求又は債務整理(取引
期間が短く過払いが発生していない場合)
に業務を特化したことにあります。

  全国の消費者金融の借主の多くは、こんな最高裁判決が出て支払い過ぎた利息が過払い金として
戻されるようになるとは夢にも思っていなかった筈です。
  過払い金返還請求など寝耳に水の話でしたから、法律事務所の業務として取り込むにはこの情報
を広くPRする必要がありました。   

  今から10年前と云えばネットからの物品購入が一般化して、HPが集客或いは広報の有効なツール
として確立された時期です。  過払い金返還請求のようなやや特殊な事案の集客にこそHPは威力を
発揮するツールでしたから、アディーレ法律事務所はテレビでCMを流す他HPも大いに利用して全国
津々浦々の借主からの依頼を獲得していったのです。

  さて、アディーレ法律事務所が2カ月の業務停止処分(元代表の石丸幸人弁護士は3カ月の業務停止
処分)を受けた理由というのは、HPに景品表示法違反(有利誤認、消費者庁から平成28年2月16日に措
置命令を受けた
)の広告を掲載したことです。

  何が有利誤認かと云いますと、「1カ月の期間限定のキャンペーン期間内に契約から90日以内に契
約解除した場合、着手金の全額返還、過払い金返還請求の着手金の無料又は値引き、借入金の返済
中の人の過払い金診断の無料を謳い、キャンペーン期間中に依頼すれば有利であると感じさせる内容
になっていた」のに、実際はキャンペーン期間を平成22年10月から平成27年8月12日の5年近くも
継続させており、それが有利誤認に当たる内容の表示になるというのです。
 
 
消費者庁の措置命令は、「お詫びとお知らせ」と題する社告を新聞に掲載し、表示等の管理を行う審
査室を設置せよというものでした。

  一方、東京弁護士会の業務停止処分というのは法律事務所の業務への影響や社会的影響という点
でも全く次元が異なる重い処分なのですが、 今回懲戒請求をした「弁護士自治を考える会」という任意
団体でさえ、戒告の処分で上出来と思っていたところにこんな処分が出て驚いていると云います。

  しかし、同弁護士会の懲戒委員会は、1カ月の期間限定としながら5年近く継続させた広告の掲載に関
し元代表石丸氏の指示・承認があったとし、そこに重大な過失、組織的な非行、際立つ手段の悪質性が
あると判断しているのです。

  業務停止処分の結果、アディーレ法律事務所は数万人いるとされる依頼者との委任契約を解除しな
ければならず、依頼者の求めがあれば
アディーレ法律事務所
の弁護士との個人契約に切り替えること
が可能ですが、弁護士や法人から率先して依頼者に働き掛けることは出来ません。
 現在、アディーレ法律事務所と電話が繋がらなくなっていて、東京弁護士会には相談の電話が殺到し
ていると云います。
 


  景品表示法違反が決して軽微とは云いませんが、それにしても事務所の経営や存続に深刻な影響を
与え兼ねないこんな重い処分にした背景には何があったのでしょうか。

  アディーレ法律事務所が特化していた過払い金返還請求又は債務整理というのは、
前述の成18年
1月13日の最高裁判決
の結果降って湧いたようなバブル的業務なのです。  謂わば、消費者金融が
徒花であったようにこの業務は判決から10年以上経過すれば激減して行くことが明らかな業務なのです。
 元代表の石丸氏は激減を見越して回転寿司事業への進出を打ち出したばかりでした。
 
  そもそも消費者金融の債務整理という業務は宇都宮健児弁護士(2010年~2011年に日弁連会長を
務める)らが1990年代頃に開拓したもので(当時は消費者金融をサラ金と呼び、30%~40%という
高金利を取っていた)、それまで手掛ける弁護士など殆どいなかったのです。  
  要するに、債務整理を依頼するのは消費者金融の多重債務者であり、弁護士が金融会社と交渉して
債務をカットして貰い、毎月の返済額を支払い可能な額に減額する和解契約を締結し、依頼者は以後
毎月の弁済金を弁護士に渡して弁護士が金融会社に返済して行くというのがこの業務のスタイルなの
です。

  消費者金融の債務整理の和解条件については、成18年1月13日の最高裁判決を先取りしている
ところがありました。   どういうことかと云いますと、それまで支払ったグレーゾーン金利部分(
業者との約定金利29%と利息制限法上の上限金利18%との差額部分)を残元本から控除した金額を
年18%の利息を付して支払うという条件に殆どパターン化しており、同判決で過払いとされた金利部分
を金融会社に事実上認めさせていたからです。

  アディーレ法律事務所が行っていた消費者金融の債務整理業務もそのそのようなパターン化した和
解条件(利息制限法に基づく再計算した残元本を毎月支払い可能な金額で支払って行く)や業務スタイル
を継承しており、同様に平成18年1月13日の最高裁判決以後にドル箱になった過払い金返還請求に係
る過払い金の額も従来からある利息制限法に基づく再計算ソフト
に入力すれば簡単に算出されますし、
金融会社との間に金利に関する争いがもはやないとすれば、難しい交渉も要らず、その殆どをパラリー
ガル(法律事務所事務員)に任せられる仕事になっていたのです。


  私見になりますが、

  弁護士会は前々から、そのような消費者金融の過払い金返還請求又は債務整理に業務を特化して他
の法律事務を殆どやらない法律事務所のあり方について如何なものかという感慨を抱いていたのだろう
と思います。

  アディーレ法律事務所の弁護士の7割以上は経験5年未満だと云いますが、こんなパターン化した法
律事務の管理ばかりやっていても弁護士としての技量が磨かれる筈もありません。

  アディーレ法律事務所より上の5つの法律事務所の業務は企業の会社法務が中心であり、そこには
様々な法律事務が含まれており、こおいう事務所でこそ新人弁護士は一から鍛えられるのです。

  消費者金融の過払い金返還請求又は債務整理のような業務は、全国の弁護士事務所が分担して扱
うべきものなのでしょう。  この業務に特化し広告に膨大な経費を投下して依頼者を独占的に囲い込む
アディーレ法律事務所のような
あり方はやはり弁護士倫理にも添った
ものではなかったのです。

                      2017.11.18

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