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行政書士田中 明事務所
< コラム >
事業者泣かせの「営業の為ないしは営業として」
割賦販売法では従来から商行為になる契約を割賦販売法の適用除外としていましたが(旧割賦販売
法第30条の四第4項2号)、「商行為」という文言は平成21年12月1日施行の改正割賦販売法か
ら「営業のため若しくは営業として」に改訂されています(同法第35条の3の60第2項第1号)。
「商行為」を「営業のため若しくは営業として」に一番早く改訂したのは特定商取引法で昭和63年
のことです。 改訂された理由というのは、貴金属や会員権の利殖商法で多くの被害者を出し
た事業者にクーリングオフを認めて救済することにありました。
文言が「商行為」のままでは絶対的商行為に該当するこれら利殖商法にクーリングオフの適用が
出来なかったからです。 そこで、 「「営業のため若しくは営業として」と改訂することで、
これらの利殖商法が本業と無関係な契約であること、つまり「「営業のため若しくは営業として」
契約したものでないことを事業者が主張・立証することを条件にクーリングオフを出来るようにし
た訳です。
ところで、自動車の販売・修理の会社が訪問販売業者と締結した消火器剤充填整備、点検作業等
の実施契約につき商行為性が争われた事案で、「消火器を営業の対象とする会社ではなので営業の
為若しくは営業として締結したものではない」として株式会社にクーリングオフを認めた判決があ
ります(大阪高裁平成15年7月30日判決)。 判決→全文
会社の消火器剤充填整備、点検作業等の実施契約は絶対的商行為でなく附属的商行為と推定され
る契約ですが、同判決ではこの場合でも営利目的の取引でなくかつ事業の対象でないとして(消火器
は消防法の目的から要求されるもので営利目的がないと判断)クーリングオフが認められるとして、
事業者救済の範囲を広げているのです。
さて、割賦販売法で商行為から「営業のため若しくは営業として」に訂正された趣旨は、特定商
取引法の場合と同様に本業と無関係な契約を締結した事業者の救済にあると考えられます。
また、経済産業省は「営業のため若しくは営業として」の公権的解釈を発表しており、
事業者が「営利目的」又は「事業性」の何れかを有しないことを立証すれば、割賦販売
法の適用があるとしています。
具体例で云えば、従業員の為に自販機を購入することは福利厚生の目的であり、専ら自宅で使用
する為にIP電話を導入することは自家消費の目的であり、ボランティア事業を行う為に資材等を購入
することは非営利の目的であり、何れも「営利目的」がなく割賦販売法の適用される契約になります。
ところが、今年に多く提起されたサンテックスのグリーストラップ浄化装置に関する訴訟では、
「飲食店経営の為に設置した」として「営業のため若しくは営業して」の取引に当たるとの判決が
出されています(参考 大阪簡易裁判所平成24年11月7日判決)。
しかし、グリーストラップは法律と条例の目的から設置が要求されているもので、油脂分を分離
し除去する為の装置なのです。 その設置目的は下水管の破損や詰まりの予防にあるのです。
一方、グリーストラップ浄化装置というのはグリーストラップに溜まって来る排水をマイナスイオ
ンで浄化してグリーストラップの掃除を軽減する為の装置であり、グリーストラップの機能を補完す
る為の補助装置なのです。 参考→グリーストラップとグリーストラップ浄化装置の関係
結局、グリーストラップも消火器と同様に法令に基づき設置が義務付けられているから設置するだ
けの装置であり、グリーストラップ浄化装置はその補助装置ですから、厳密に見れば「営利目的」が
ないとも云えるのです。
飲食店を経営する為にグリーストラップを設置したというのは、大雑把に見ればそう云えるという
だけなのです。 大雑把でいいと云うなら先の消火器だって自動車の販売修理業を営む為に設置し
たと云えなくはないのです。
「営業のため若しくは営業として」の公権的解釈では、そのような大雑把な見方をしていま
せんし、業務性・営利性が該当するかしないかが明確に区別できない場合には割賦販売法の適用があ
るものとして取り扱うことを期待するとしているのです。
そうであるのに現状の裁判ではこの公権的解釈の精神が十分活かされておらず、事業者の契約であ
れば殆どが経営の為の取引とされて事業者が救済されない可能性が高いように思われます。
少なくとも、法令の目的で設置が義務付けられているものは非営利目的と推定するなど明確な規定
を省令等で定めるべきと考える次第です。
2012.12.13