内容証明郵便でブレイク !  第19号
               平成16年6月11日発行

             今回の目次
        □ 地方の商慣習と時効
        □ 条件と期限について・・・法律行為の付款



    □ 地方の商慣習と時効

 10年前の売掛債権を回収出来るかという相談を持ち掛けられたとしたら、
多くの人は渋い顔になって、調べる気も起さないでしょう。
 売掛債権は2年で時効、という固定観念があるからです。
しかし、それが通じるのは、契約書をちゃんと作成する都会の場合であって、
地方に行くと、古き良き慣習というものがあり、
この固定観念が完全に崩れてしまうことがあります。
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 私は、先日熊野の木材商からあった相談でそれを実感したのです。
売掛債権は10年以上も前のもので合計450万円、
しかも支払期限は定めていないというのです。
 どうも、まとまった金が入った時に支払ってくれという契約のようなのです。
聞いて見ると、これが、熊野地方の木材取引の商慣習で、
ずっとこれで商売をやって来たというのです。
 大工の買主はまもなく行方不明になり、最近所在が分ったものの、
直ぐに死亡し、相続人が継いでいるという。

 相続人から回収出来るでしょうかという相談なわけです。
そこで時効を回避する構成が何とか出来ないものかということが、
緊急の問題になります。

 債務が相続人に承継されているとしても、
時効の起算点は、何時になるのか・・・・・・。
これは、単に支払期限の定めない契約なのか。
それならば、債権成立時から2年で時効だ。
いや、そうではなくて、支払期限を猶予しているのではないのか・・・・。
といったことが、論点になります。
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 そう言えば、「出世払い」というのが、あるではないか。
出世払いというのは、将来の何時になるか分らないが、
とにかく出世する・しないが確定する時まで、
支払を猶予してあげるという契約なのである。
 もちろん、こんな浮世離れした契約も有効で、
判例によれば不確定期限付き契約とされています。

 熊野地方の商慣習は、これと似ているではないか・・・・・。
ということで、私はこの出世払いをヒントに、イチカバチカ内容証明郵便で、
相続人に催告して見ることにした、というわけです。
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 私の法律的構成は、このようなものです。
当地の商慣習では、支払期限を定めないが、それは支払資金の準備が出来る
将来の然るべき時期まで、期限を猶予する趣旨である。
従って、その猶予が解ける時まで支払義務はないのであるから、
時効の起算点も猶予の解けた時である。
これが、契約締結時の当事者の意思である。

 将来、裁判になったら、裁判官がこの通り認めるか否かは別問題です。
今はとにかく相続人に通知して、協議に乗って来させる仕掛けを作ることが先決
なのです。100万でも払うと言ってくれれば、大成功なのですから。


    □ 条件と期限について・・・法律行為の付款

 時効が絡んでくる古い債権の回収では、
契約に付された条件とか期限が、大きな意味を持つことがあるようです。
 ここで少し、条件と期限の違いを整理して見ます。

 条件とは、将来発生するかどうか不確実なある事実によって、
契約の効力の発生又は消滅を規定することをいいます。
例えば、「私が病気になった時、車をあげる」と言った場合、
「病気になった時」に初めて、車の贈与契約の効力が発生します。

 また、「銀行融資が受けられなかった場合は、不動産売買契約は
失効する」とした場合、「銀行融資が受けられないこと」が確定した時、
不動産売買契約の効力は消滅します。
 このように、「病気になつた時」とか、「銀行融資が受けられなかった時」は、
いずれも不確実な将来の事実ですから、条件ということになるわけです。
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 次に、期限とは、将来発生することが確実なある事実が発生する時まで、
契約の発生・消滅又は債務の履行を猶予することをいいます。
 例えば、「私が死んだら、車をあげます」と言った場合、
「私が死んだ時」に初めて、車の贈与契約(遺贈)の効力が発生します。
「私が死ぬ時」は、将来確実に発生する事実ですから、
期限になるわけですが、何時発生するかは不確かです。
そこで特にこれを、不確定期限といいます。
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 先の木材商取引でも、資金が出来るまで支払期限を猶予しており、
かつ資金が何時出来るかは不確かであることから、
不確定期限付き売買契約ということになるわけです。
 この場合、売主は権利の上に眠っているわけではなく、
買主に資金が出来た時又は破産等で資金準備が出来なくなった時まで、
請求を猶予しているに過ぎません。

 ですから、消滅時効も権利を行使し得る時から、
つまり猶予を解いた時から進行するのではと私は考えるわけです。
 今日は、かなりスリリングな私見を書きました。

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